電車とヒト

とにかく、東京駅とか、都内の主要なJRの駅に1時間程度で行けるところからの上り線のヒトの多さったらない。

駅に着くたびに、息を吐き出すようにヒトが降りて、それより多い息が入ってくる。こんなに息を溜めちゃって大丈夫かしらと心配になるほどに、電車はヒトをパンパンに乗せる。

ヒトがたくさんいるんだからさぞかし交流があるものかと思うとそんなことはない。ヒトとのスペースは確かにとっても近い。そのヒトと話すことはない。毎日、長時間を共に過ごしていたとしても、それぞれの世界に夢中で、肩を触れ合っているヒトのことは構わない。

前は紙の新聞や本を読んでいた。ちょっと前は音楽を聴く人がいた。今は携帯電話を見る人が多い。昔も今も、目を酷使しているようだ。

抗いたい気持ちが避けられなくなり、私は目を閉じた。目を閉じると、電車が思いのほか揺れていることに気づいた。電車が線路を越える音以外は、何にもしないことがわかる。これだけのヒトがいることを忘れさせるくらい、ヒトは押し黙っている。

沈黙を押し破るように、次の駅への到着を告げる機械音声が明瞭に聞こえる。ただ情報だけを伝える機械の声が。駅のホームで、くぐもったヒトの声で、次の駅の情報が伝えられる。初めてひとの声を聴いた気がした。

耳を使うと気持ちがいいな。両の横を見るとヒトが座って寝ている。

ヒトと私。さあ今日も生きていく。